はじめに(基本的な考え方)

電力を機械力に変換する過程では、必ず損失が発 生します。この損失は主として熱に変わります。そ して、得られる機械力が大きいほど、損失も大きく なる傾向があります。電動モータ内に生じた熱エ ネルギーは、温度上昇をもたらします。その結果、 (伝導と対流により)高温部から低温部に熱が移 動し、最終的にはモータ外部に運ばれます。

電動モータの製造元にとっての大きな課題として、 モータ内部の瞬間温度が、個々の部品の最高許容 温度を超えないようにすることがあります。モータ の設計や使用する材料にもよりますが、熱現象は モータの性能に大きく影響します。

設計者は通常、部品が過熱により破損することな く性能を発揮できるよう、次の2点を改善しようと 試みます。

損失を最小限に抑えること。電力の変換効率を上 げるため、得られる機械力に対して発生する熱を 抑えます(あるいは、発生する熱が同じでも、より 大きな機械力が得られるようにします)。

発生した熱エネルギーを周囲環境に移動する(熱 放散)能力を高めること。これにより内部の温度上 昇を抑え、より多くの熱エネルギーが発生しても同 じ温度が保たれるようにします。

この現象を分かりやすく説明する喩えとして、排水 口がある浴槽に、水を注いでいる状況を考えてみ ましょう。( 図 1 )

蛇口から注がれる水の流れは、モータ内部の熱エネルギーの発生に相当します。水が浴槽にたまっても、 底にかかる圧力により、排水口から出ていきます。これが熱放散に相当します。水位が高いほど、浴槽の底 にかかる圧力が高くなり、したがって排水の流速も増します。

同様に、モータの熱放散は、モータの内部温度と外部(周囲)温度の差に比例します。しかし、排水の流速 が排水口の口径に依存するのと同様に、熱放散は、熱抵抗、すなわち、モータからの熱移動が「どれだけ難 しいか」にも依存します。熱抵抗が小さいほど、熱はモータの外部に、迅速に移動します。言い換えれば、 熱放散力が大きくなるのです。

浴槽の容積には限りがあり、水位がある点を超えるとあふれ出します。同様に、モータの部品にはそれぞれ 決まった熱容量があり、瞬間温度がある点を超えると、たちまち破損してしまう可能性があります。モータの 定格性能は、モータを許容動作温度の範囲内に保つための要件を考慮したものでなければなりません。

通常、この要件を決定づける最も重要な部品はコイルです。ここがまさに、ジュール熱が発生する部分だから です。限界以上の高温になると、銅線の周りの絶縁被膜が溶け、モータが恒久的に破損することになります。

定常状態での運用

ブラシ付きDCモータ

コアレスブラシdcモータは通常、永久磁石とハウジング(いずれも固定子の一部)の間の空隙で、自立コイ ルが回転するものとして設計します。( 図 2 )

回転コイルで発生するジュール熱の量(W)は、コイルの電気抵抗 R(Ω)および電流 I(A)に依存します。

回転子は無鉄芯なので、鉄損はありません。

コイルの温度が上昇すると、熱はコイルからチューブ(1)に移動し、次いで周囲環境(2)に移動します(図2 を参照)。この2つの段階で、熱抵抗(それぞれRth1、Rth2と表記)は異なります。材料の熱伝導率の相違に加 え、部品の形状や重量、表面積も熱移動の挙動に影響を与えるためです。

熱の発生と放散の平衡について

コイルを流れる電流 I が過大でなければ、コイルの 温度が上昇すると、ある点までは熱放散も増加し ます( Tcoil - Tamb に比例)。この状態では、発生した 熱はそのまま周囲環境に放散します。モータ内部 の熱エネルギーは、時間が経過しても一定であり、 したがって部品の温度は変化しません。

毎秒の注水量と排水量がまったく同じであると き、浴槽の水位が一定を保つのと同じように、コ イルもある温度で安定します。コイル温度がこの 安定値をわずかに上回ると、放散力もわずかに増 加し、温度を安定値に戻すように働きます。その結 果、定常状態に達します。

コイルの定常温度は、電流(I A)、電気抵抗R(Ω)、 熱抵抗Rth1およびRth2(K/W)(この2つは前後につな がっているため加算)、周囲温度Tamb(K)の関数と して計算できます。定常状態では、熱の発生と放 散が平衡しているためです。

温度の上昇につれて電気抵抗も上昇…

実際には、コイルの電気抵抗(R)は瞬間温度によっ て変わります。コイルの温度は周囲に比べてはるか に高くなっているので、特定の温度における、実際 の電気抵抗を考慮することが重要です。

例えば、コイルの温度上昇(Tcoil-Tamb)が100°Cとし ましょう。上記の式によれば、122°Cのときのコイ ル抵抗は、22°Cのときの抵抗(R22)に比べて39% 高くなります。これは大きな差であって、無視して 熱計算することはできません。

この現象により、高温になるほどジュール熱の量 R * I2 は大きくなり(電流は同じであると仮定)、 次の式で求められる温度で、コイルは最終的な 定常状態に達します。

グラフ1のように、(熱時定数に応じた)一定の時 間で、コイルの温度は徐々に上昇し、最終的に定 常状態に達します。

次に、電流 I が(例えばトルク負荷が増したために)増えた状況を考えてみましょう。この場合、コイルはより 高い温度で定常状態に達します。定常状態のコイル温度が、銅線メーカーが指定する、コイルの最高許容温度 (たとえば125℃)を超えてはなりません。この制約によって電流の最大値が決まります。先に示した式を使っ て逆算できる値で、通常、モータの仕様では「定格電流」(または「最大連続電流」)と呼びます。(飽和状態に ならなければ)トルクと電流は比例するので、これによって「定格トルク」(または「最大連続トルク」)も決まり ます。

ブラシレスDCモータ

ブラシレスモータも動作原理はブラシ付き モータと同じです(磁場内を移動する電子 にラプラス力が作用)。ただし、コイルは固 定子に固定され、永久磁石が軸とともに回 転します。相転流は電気的に制御します。

モータ内部にあるもうひとつの熱発生源…

固定子に対して磁場が移動し、その固定子 には(磁場をモータ内部に閉じ込めるため の)積層鉄芯が付いているため、「鉄損」 という現象が起こります。固定子の積層ス タック中に、渦電流が生じるためです。この 電流により、固定子の内部に熱が発生しま す。ブラシ付きモータの場合と同様、コイ ルにはジュール熱が発生しますが、ほかに も熱の発生源があります。鉄損はモータの速度に比例するため、低速では無視できますが、高速になると ジュール損以上に影響が大きくなります。したがって高速では、トルクを低く抑えなければなりません。

浴槽の喩えに戻ると、蛇口が2つあることに相当します。1つはジュール損、もう1つは鉄損です。

ブラシレスの場合、機械設計により、ブラシ付きに比べてはるかに高速なモータを実現できます。ブラシとコ レクタによる機械的な転流機構により、速度が制限されることがないからです。

熱の発生源が2つで、高トルク(低速)時のジュール損と高速(低トルク)時の鉄損にはトレードオフの関係 がありますが、どちらを優先するとしても、コイルを最高許容温度以下に抑えなければならない、という課 題は同じです。

熱抵抗の性能に対する影響

ここまで、コイルから外部環境への熱移動に伴う、2種類の熱抵抗について考えてきました。Rth1はもっぱら モータの設計に関係するものです。一方、Rth2は、モータの周囲状況にも関係します。実際、熱伝導率の高い 別の物体にモータを接触させると、熱の放散が促進され、より低温で動作するようになります。

  • モータ本体の外被(追加のチューブ/スリーブなど)
  • モータ本体の周りを空気が流れるようにして対流を促進
  • モータ前面を金属体に取り付け

全体の構造や、さらには材料の熱伝導性にもよりますが、モータの周囲状況によって、熱の放散が促進され たり、妨げられたりします。

多くの場合、モータは金属部品に取り 付け、さらに、前面から金属製のスタン ドやフレームに取り付けることになり ます。金属は熱伝導性が高いため、熱 の排出を促進する効果があり(図5を 参照)、空気だけで囲むよりも優れた 冷却効果が得られます。

したがって、この優れた冷却能力に合 わせて、熱抵抗Rth2の値を、モータの取 り付け方法に応じて調節するとよいで しょう。取り付けに用いる外部部品の 材料、大きさ、表面積、熱容量など、 すべてが実際のRth2に影響を及ぼし ます。

浴槽の喩えに戻ると、排水口の口径を 大きくすれば、浴槽内の水位(圧力) を高めることなく、排水速度を上げる ことができます。

理屈の上では用途に大きく依存しますが、Rth2の値の半分を熱計算で考慮すれば、まずまずの見積もりが得 られるでしょう(値が小さいほど冷却効果が高い)。結果として、最高コイル温度Tcoil が同じとすれば、より 高い定格トルク(最大連続トルク)が得られます(トルクは電流Iに比例)。

モータ設計者や、Portescapなどのメーカーは、開発工程の早い段階で顧客と協力して、モータそのもの、あ るいはモータとギアボックスの組み立て品を、実際の使用場所に取り付けた動作条件で熱放散能力を評価 し、システムの潜在能力を最大限引き出せるようにしなければなりません。

一時的な動作

ピークトルク

用途によっては、短時間だけ高トルクが必要になります。産業用電動工具、例えばドライバーの場合、ランダ ウン段階では速度を求められます。その後、締め付け段階では高いピークトルクを必要としますが、これは 1秒以内で終わります。

最大連続電流を超える電流をモータに供給しても、コイルの最高許容温度を超えない限り、問題ありませ ん。この状態の継続時間を制限すればよいのです。

空の浴槽を用意し、急に蛇口を開けて、非常に強い勢いで水を注ぐことを考えてみましょう。通常、ピークトル クは短時間(数秒)しか続かないので、(時定数が長い)熱放散を無視し、断熱系とみなすことができます。

水位は急速に上昇し、たちまち浴槽がいっぱいになります。 同様に、コイルはたちまち最高許容温度に達します。次の式 は、コイル温度の経時的変化を表します。ただし熱放散の効 果は、短時間なので無視します。

式から分かるように、コイルの熱容量も重要です。熱容量が 大きいほど、より長時間のピーク電流(または、同じ時間で も、より大きなピーク電流)に耐えられます。大きな浴槽ほ ど、満たすのに時間がかかるのと同じことです。

スロットレス型ブラシレスモータは、ピークトルクが短時間である場合に、特に適しています。

  • 固定子がスロットレス型の設計のため、大電流を流すことにより高トルクを達成できます。典型的に は、電流を10倍にすれば、最大連続トルクが10倍になります。一方、スロット付きの場合、磁気飽和の ためトルクがある最大値に抑えられるので、大電流にしてもトルクに関しては無意味です。
  • スロットレス型のコイルは熱容量が大きく、大量の熱エネルギーを蓄積できます。
  • 用途に応じて適切なピークトルクが得られるよう、顧客と連携して最適な設計をしてくれるエンジニ アリングチームを見つけておけば、何かと役に立つでしょう。

周期的デューティサイクル

用途によっては、トルクの特性曲線が一定時間ごとに同じパターンを繰り返す、という設計が必要です。その パターンや、サイクル内の各ステップの時間によっては、サイクル内の最大トルクが、モータの最大連続トルク を多少超える場合もあります。

1サイクルの時間(周期)が熱時定数よりも大幅に短い場合は、等価連続トルク値(または電流値)を考える のが普通です。これは、ジュール加熱がI 2 に比例するので、2乗平均平方根(RMS)として計算できます。

電流のRMSを定義すれば、この値を時間によって変化しない連続値とみなすことができるので、これがモー タの最大連続トルクを超えないようにすればよいことになります。

念のため注意しておくと、先に述べた熱抵抗の影響も(モータを使う実際の環境に応じて)無視できませ ん。定常状態(デューティサイクルの時間が熱時定数よりも短い)の動作と看做して考えているからです。

能動型の空冷機能を備えたブラシレスDCモータ

熱の管理はモータの性能を改善するための鍵とな るので、熱を逃がすための新たな方法がいくつか 考案されました。その1つに、空気の通り道を固定 子に作り込み、気流によってモータ内の熱を逃が す、というものがあります。熱の伝導ではなく、モー タ内部の大きな熱対流に着目した方式です。ヒート シンクを追加することにより、熱抵抗を小さくした と考えることもできます。いずれにしても、モータか ら熱を排出する効果があります。

圧縮空気装置など外部の機構により、気流を作り 出すこともあります。また、携帯機器に組み込んだ モータなど、圧縮空気が使えない環境では、モータ の軸にファンを取り付け、モータの回転により気流 が生じる仕組みにすることも考えられます。この場 合、モータ(したがってファン)を高速にするほど気 流が強くなり、したがって熱抵抗は下がります。す なわち、モータが高速になるほど、トルク能力も大 幅に高くなります。ファンが高速に回転すると、熱 放散も劇的に改善されるからです。もっとも、これ が正しいのは、ある程度までに限ります。ファンが 引き起こす気流はモータに対する負荷トルクとして 働くため、超高速で回転すると、これ自体が熱の発 生源になってしまうからです。

結論

電動モータの性能を決める要因は多数あり、熱の管理はその1つです。熱を適切に管理することにより、 モータのさまざまな課題を改善できます。デューティサイクルや環境条件、あるいは特に重視する性能(高 トルク、高速回転、エネルギー効率(バッテリー寿命)、低温での動作、その他)に応じて、改善方法が考えら れます。顧客が抱える課題を把握し、最善の解決策を示すことにより、成功への道筋を与えてくれるパート ナーを見つけてください。

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図 1:モータの熱移動:浴槽を使った喩え
図 2:コアレスブラシDCモータの熱放散
グラフ1:コイルの温度が定常状態に達する様子(電流は時間経過によらず常に一定)
図 3:ブラシレスDCモータの構造の例
図 4:熱の発生源が2つあるBLDCモータ:浴槽を使った喩え
図 5:モータ本体と外部部品との接触による熱放散
図 6:熱抵抗を小さくして熱放散を促進:浴槽を使った喩え水位が低いので、水位が浴槽の上端(最高許容温度)に達す るまでの間に、より大きなトルクを得ることができます(より多くの熱発生に耐えるだけの余裕があります)。
図 7:非常に強い電流が、短時間(熱放散を無視してもよい程度)だけ流れる状況:浴槽を使った喩え