世界各地の外科医は、最高のパフォーマンスを発揮し、患者の転帰を改善するため、最先端の技術 を利用した外科用ハンドツールを使用したいと考えています。処置にかかるコストを抑えるため、 最先端のツールを大量に使用する必要があり、異なる患者には蒸気滅菌(オートクレーブ)が必 要になります。大規模な外科センター(多くの場合ティア1と呼ばれる)であれば、こうした高価な器具の初 期費用を負担することも、患者1人あたりの費用を無理なく負担できるレベルに抑えられるだけの手術件 数をこなすこともできます。しかし、この費用モデルは小規模な医療機関(ティアIIやティアIII)には理想的 とは言えないため、購入価格の低い手術用器具が求められています。そしてこれが大きな課題となってい ます。低価格器具の多くは性能を犠牲にしており、耐久性が低く、そのため十分な回数の手術や滅菌に耐 えられないと考えられるためです。

このホワイトペーパーでは、適切なモータを利用することで、いかにハンドツールの性能と耐久性を最大限 に高め、コスト重視の外科センターで器具を手頃な価格に抑えられるかを説明します。これにより、より多く の患者が最高水準の外科治療を受けられるようになり、命を救い、生活を改善することができます。

コスト重視の外科用ハンドツール市場

アジアはコスト効率の高い手術用器具の主要な市場です。医療ツーリズムの広まり、社会経済的成長、そ して手術の選択肢に関する理解の深まりによって、この地域で行われる外科手術の件数は急速に増加し ています。さらに、アジアの人口は高齢化が進み、多くの場合に外科的介入を必要とする関節炎などの加 齢に伴う病気の罹患率が高くなっています。若い世代であっても、旅行やスポーツなどライフスタイルが より活発になるにつれて、外科治療を必要とする頻度が高まっています。

世界各国の地方地域にも、低価格器具への需要があります。こうした地域の病院では、都市部の大規模 な外科センターのように高価な器具のコストに採算を合わせるだけの治療効率が得られないためです。 表1は、各種医療機関の要件をまとめたものです。

外科用ハンドツールのデザイン

ACモータを使った従来のコード付き空気圧式ハンドツー ルから、軽量なブラシ付きDCモータまたはブラシレスDC (BLDC)モータを使ったバッテリー駆動式器具の使用への 移行が進んでいます。しかし、現在販売されている低価格 のブラシ付きDCおよびBLDCモータを使った器具では、蒸 気滅菌による性能や耐久性の低下などが問題となっていま す。また、最低限の速度とトルクを実現する上でどうしても サイズと重量が大きくなるため、人間工学にかなった形状 になっていません。さらに、効率性が低いため大きくて重い バッテリーを必要とし、外科医の手に放出される熱の量が 多くなっています。

蒸気滅菌のしくみ
病院で使用される最も一般的な滅菌方法は、オートク レーブとも呼ばれる蒸気滅菌です。オートクレーブ処 理中には、外科用ハンドツールは最大30分間、湿度 100%、温度135℃の環境で圧力変動にさらされます。 ほとんどのオートクレーブ装置には、蒸気の浸透を促 進し、デバイスの微小な空洞内に入り込む可能性のあ る細菌、ウイルス、真菌、胞子を死滅させるための追加 機能として真空サイクルもついています。この環境に繰 り返しさらされると、通常、これらの条件に十分耐えら れるように設計されていないモータやデバイスには重 大な電気的不具合や腐食の問題が発生します。 (図2)

  • 温度:121~135℃
    (過熱蒸気)
  • 圧力:2~3バール
  • 処理時間:6~30分

コスト効率が高く高性能なモータがないことから、外科用ハンドツールの設計者の中には、滅菌処理に対応 していないモータを選択し、ハンドツールの外枠にシーリング材を追加して保護する方法を採っている人も います。その結果、器具はよりかさばるデザインとなり、多くの場合オートクレーブ処理での耐久性が低くな ります。器具の設計者が保護方法を熟知している他の電気部品とは異なり、モータには湿気が直接入り込む 経路となる軸が通っています。加圧蒸気がこの経路に入るのを防ぐことは特に困難です。外科用ハンドツー ル業界での経験があり、オートクレーブ対応モータを扱うサプライヤーは、モータの電子部分を密封して回転 軸から湿気が入らないようにする方法を把握しています。これは、器具レベルでは達成できないことです。結 果的に、オートクレーブ非対応モータを使用することで削減したコストは、通常、器具の他の要素における コストの増加と、経験不足による開発コストの増大によって相殺されてしまいます。オートクレーブ処理によ る耐久性の低下によって、顧客の総所有コストもかさみます。器具が故障して交換されるまでの間は手術を キャンセルするか、バックアップとして予備の器具を購入しておく必要があるためです。

一部の企業が検討しているもう1つの方法は、手術中は保護されていて汚染されない器具の一部にモー タを配置し、ハンドツールを滅菌する前に取り外すことでモータが滅菌処理されないようにするというも のです。しかし、これは一般的に安全性の低いアプローチと考えられています。汚染物質がドリルビットま たはソービットへのカップリングを介してモータに到達する可能性があるためです。ティアI製品の安全基 準に合わせるため、ティアIIおよびティアIIIの医療機関は、完全滅菌対応モータを使った完全滅菌対応ハ ンドツールにアップグレードする必要があります。( 表2 )

オートクレーブ対応の各種モーションソリューション

器具の設計上の耐久サイクル数に関係なく、器具の使用期間全体にわたって高い安全性と信頼性を達成 するための最善の方法は、オートクレーブ耐性機能を組み込んだモータを使用することです。ティアI市場 向けに設計された器具の場合、各種ハイエンドモータには、繰り返しオートクレーブ滅菌処理を行っても 器具の寿命を最大限に高められるようにする上で必要なあらゆる材料の選択肢とシーリング材が組み込 まれます。器具1台あたりの手術件数が増えることで、購入金額が増えても採算が合う以上の見返りがあ ります。一方、ティアIIおよびティアIII市場を対象とする器具の場合、器具の耐用年数が他の要因によって 制限される場合があり、ハイエンドのモータ機能では投資に見合う価値が得られません。この場合、オー トクレーブ耐性機能を選択的に組み合わせたモータが、最善の転帰をもたらし、手術1回あたりのコスト を最低限に抑えられます。

このホワイトペーパーではモータに焦点を当てていますが、伝動装置と制御もオートクレーブ処理によって 劣化するため、目標耐用年数を設定し、滅菌処理からの保護について考慮すべき事項に含める必要があ ります。外科用ハンドツール市場での経験を持つフルモーションソリューションパートナーであれば、さま ざまな目標耐用年数やコスト制限の条件を満たす各種モータ、ギヤヘッド、コントローラを取り揃えていま す。このようなパートナーの幅広い製品、カスタマイズ機能、専門的な設計コンサルティングを最大限に活 用するには、デバイス開発のコンセプトもしくはアイディエーションの段階からパートナーと協力すること がきわめて重要です。

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表1
表1. 医療機関のタイプ別に求められる手術用器具の要件
図1
図1. 外科用電動ハンドツールの例
図2
図2. 蒸気滅菌のしくみ
表2
表2. 各種滅菌管理の比較
表3
表3. モータサプライヤーとの早期連携のメリット