ステッピングモータの 共振の回避

ステッピングモータは一般的に多くの極数を有する電気ブラシレスモータです。同モータは、ロータ位 置フィードバックシステム (エンコーダや一体型ホールセンサなど) を必要とせずに段階的に駆動す ることができるため、一般的に、扱いやすく費用効果の高いポジショニングソリューションとして使用 されます。こういったフィードバックが不要なモータ駆動方式は「開ループ」制御とも呼ばれます。このような モータの設計およびそれらの駆動方式は、ある特定の条件下において問題を引き起こす可能性があります。 本書では、そのような問題を回避し、適切に動作させ続けるための様々な方法を説明します。

ステッピングモータの概要

ステッピングモータの位相は、外部の電子ドライバによって連 続して転流されます。それに伴い、ロータ(一般的には、永久 磁石を有する)は1つの安定位置から次の安定位置へ移動し ます。選定したモータは、各転流後の次のステップに十分なト ルクでロータと負荷を移動できる必要があります。トルク不足 や、高速過ぎると、ドライバと実際のロータ位置間にずれが生 じる恐れがあります。これにより、ステップの損失、回転方向の 変化、一般的な不安定な動作が発生する可能性があります。

図1に極対数が1つの非常にシンプルな二相ステッピングモータ の概略を示します。電子的に起きる転流シーケンス(A、B、-A、 -B)により、4つのステップ(1ステップ90°)にわたってロータが1 回転します。

安定位置付近の共振

各ステップにおいて、ロータの極とステータの極の向きが同じになることがよくあります。1つの相が連続的に 通電されている限り(次の相に切り替わらずに)、ロータは安定位置を維持します。

(図2) 上記グラフは、ロータが目標位置より前方に移動してしまった場合、モータは負のトルクを発生させてロータ を目標位置に戻すことを示しています。一方、ロータが目標位置(左側)に達していない場合には、正のトルク でロータを目標位置がある前方向に押します。 このような状況下では、ロータの慣性力(場合によっては荷 重の慣性を含む)によりロータが安定位置で正確に停止することができないため、振動現象が発生しやすい と考えられます。ロータが安定位置から次の安定位置に移動(次の1ステップ)するたびに、角度位置はロータ の目標位置をオーバーシュートしてしまいます。これは、ロータが接近する際の運動エネルギーによるもので す。次に負のトルクがロータを目標位置に戻すとすぐに、その周りで振動が始まります。この周期振動の固有 振動数は、次のように計算できます。

ただし、この振動はシステム損失により時間とともに大きさが減少します。この振幅の低減は通常「減衰」と呼ばれ、いくつかの要因に依存しています。減衰により、1つの位相だけが通電された場合、最終的にロータは常に静止位置に収まります。しかし場合によっては、位相が順次通電された場合(転流)は減衰に適切に対処することが重要になります。

高速時には転流周期が短くなり、次のステップのコマンドが出されるまでに振動が収まらない場合、共振(機械システムがより大きな振幅で反応する傾向)の恐れがあります。これは上記のように、転流周波数がシステムの固有振動数に近い場合に発生する可能性があります。(図3 )

共振により、モータの不安定な動作、ステップの損失、回転方向の無作為な変化が生じることがあります。したがって、コマンドと実際のロータ位置を正確に同調し続けるには、共振を起こさないような予防策を講じることが重要となります。

共振を防止する方法

固有振動数を回避する
一般的に共振は、転流周波数が機械システムの固有振動数に近い場合に発生します。そのため、共振の発生を防止する最も基本的な方法は、記述されたパラメータを使用して転流周波数をシステムの固有振動数から常に遠ざけることです。ただし、転流周波数の変化には、速度変化を補償するために他の変化が常に必要となるとは限りません。

固有振動数を変化させる
転流周波数ではなく、固有振動数をより高い周波数または低い周波数に変化させて、転流周波数から遠ざけることをお勧めします。これは通常、固有振動数に影響を与える2つのパラメータ(システムの保持トルクと総慣性力)を調整して行います。

保持トルク
通常モータは、保持トルクを定義する定格電流に応じたサイズになっています。ジュール損が大きくなるとコイル温度が高くなり過ぎるため、連続運転では高電流を使用して保持トルクを大きくすることはできません。しかし、低トルクでもアプリケーションのニーズを満たすことができる場合は、低電流を使用することが可能です(保持トルクを低くし、固有振動数を抑えるため)。
慣性
機械システムの慣性モーメントは、モータのロータ慣性と負荷慣性の合計です。モータ開発者は、設計の変更を行うことで、ロータの慣性を変更できます。無負荷時のモーターの固有振動周波数は、通常モータの仕様書に規定されています。規定がない場合、ユーザは負荷慣性(モータから完全に独立)の変更が可能になります。慣性を大きくするとシステム全体の固有振動数が下がり、その逆も同様です。システムの慣性に手を加えると、アプリケーションにおけるモータ性能にも影響する可能性があるため、適切な動作を保証するためにモータの販売者に確認する必要があります。

マイクロステップ駆動で共振を防止する
機械システムは扱うエネルギーが高いほど、共振現象を引き起こすリスクが高くなります。この状態を防止す るには、ステッピングモータをフルステップで駆動するのではなく、マイクロステップで駆動させるという優 れたソリューションがあります。各マイクロステップ(ハーフステップ、1⁄4ステップなど)は、より小さなステッ プ角度で、1つの安定位置から次の安定位置へより少ないエネルギーで移動できます。目標位置でのオーバー シュートが小さく、振動も小さくなります。これは、共振を回避するための効果的な方法です。

また一般的に、マイクロステップ駆動は従来よりも低ノイズ、低振動、およびスムーズな動作を実現します。ス テッピングモータにはマイクロステップ駆動がよく採用されています。

減衰で共振を防止する
減衰係数には様々な種類があります。

摩擦負荷とベアリング摩擦
摩擦により、モータ速度に関係なく一定した破壊トルク(回転の瞬間方向とは反対)が発生します。摩擦は 振動を抑制し、共振を防止しますが、速度に関係なく摩擦によりモータへの負荷が大きくなることに注意し てください。そのため、共振を防ぐために摩擦を加えても十分なモータ性能であるか確認することが重要 です。
粘性摩擦
粘性摩擦も破壊トルクを発生させますが、その大きさはモータ速度に依存します。高速になるにつれ粘性減 衰力は強くなります。これは通常、振動動作を減衰させるのに適した方法です。これは、振動の振幅が大き い(始動時に高速)と破壊力が強くなり、振動が小さくなると破壊力は極めて小さくなります(かなり低速で も破壊力が変わらない乾燥摩擦とは異なります)。つまり粘性摩擦の利用は、非常に短時間で、かつモータ に過負荷を与えることなく、振動を減衰させるための優れた方法となります。

その他にも粘性摩擦の利用を検討すべきシステムでの現象があります。

» ステータの鉄芯に発生する渦電流(鉄損)は制動トルクとして作用します。このような損失は速度が高 いほど大きく、運動がない場合には存在しないため、粘性摩擦と考えることができます。モーターの設 計と採用されている技術により、鉄損はモーターごとに異なります。通常、ディスクマグネット型モー タは、鉄損が制限されているため比較的高速での動作が可能になっています。そのため、ディスクマグ ネット型モータの振動を減衰させる場合は鉄損のみに頼るべきではなく、モータなどの共振を防止す る別の方法を検討した方がよい場合があります。
» コイルに逆起電力(電圧)が誘起され、その結果、電流と破壊トルクが生じることで振動が減衰されま す。通常この電流は、非通電相が短絡した場合に許容され、モータ速度(速度が速いほど破壊トルク は大きくなる)に比例するため、粘性摩擦と考えることもできます。チョッパードライバ(定電流)では、 Back-EMFの変動に関係なく電流が一定に保たれるため、通常、この種の減衰は有効ではありません。
» 電子的な減衰ソリューションは、システム内の機械的パラメータを変更することなく、特定の方法で モータを駆動することによって適用することができます。
» また外部の機械的なダンパーも、粘性摩擦で振動エネルギーの一部を吸収して共振を防ぐために、ア プリケーションまたはモータに追加することができます。

結論

ステッピングモータの段階的な連続動作により、共振が発生する条件が揃った場合にはいつでも共振の問題を引き起こす可能性があります。場合によっては、数ある条件の1つに対処するだけで、共振を回避するのに十分な場合があります。また、モータの技術や設計によっては、固有振動数とは別に、共振を引き起こす可能性のある追加的な周波数範囲があることにも留意する必要があります。例として中周波共振があります。モータの販売者に共振を引き起こす可能性のある周波数範囲と、その発生を防ぐ方法を確認することができます。

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図1 - 極対数が1つの二相ステッピング モータの基本概念
図2 - 一相通電時のステッピングモータのトルクプロファイル
図3 - 経時的なロータ振動の減衰