手術用電動ツールの信頼性 - 湿気が大敵

再利用可能な手術用電動ツールには、信頼性が何よりも重要です。腐食しやすい電子部品と素材の存 在により、特に電気モータにとって、湿気はしばしば早期故障の原因となります。設計者はいかにし て生理食塩水、蒸気滅菌、その他の汚染源からの湿気の影響を緩和するかを考慮し、そのために可 能な限りその侵入を防ぎ、強靭な部品を選び、湿度に非常に敏感な部品を分離する必要があります。

手術用電動ツールは、多くのセンサやフィードバック制御用の電子部 品などを備え、ますます高性能な機器となっています。こうした技術 の進歩によって手術時間は短くなり、患者アウトカムも改善していま す。その一方で、機器のコストも上がっています。機器のOEMにおける その解決策は、手術での使用、洗浄、減菌に数年間耐えるツールを 設計することです。故障なくツールを使い続けられる期間が長くなれ ば、その分手術あたりの平均コストは下がり、機器の複雑さが増すこ との正当性を示しやすくなります。

外科用ツールのモータには多くの故障発生箇所があります。たとえ ば、ベアリングの故障(リテーナの故障、汚染、腐食、潤滑剤の喪失 など)、ギヤの故障(摩耗、金属疲労、腐食、潤滑剤の喪失など)、転流失敗(ホールスイッチの機能不全、短絡、断線など)、電磁気回 路の故障(電線の短絡/断線、永久磁石のエネルギー喪失など)で す。この記事では、再利用可能な外科用ツールの故障の一因となる 湿気と腐食について検討し、その緩和方法について説明します。

湿気の進入を防止する
上記の故障発生箇所すべての根本的原因となりう るのが、ツールの末端部分からの湿気の進入です。 一般的な防止策として、ハンドピースの筐体とモー タのシャフト間のダイナミックシールがあります。ダ イナミックシールは、鋭いシールの縁がシャフトに 対して保持される設計となっています。このシール は温度と摩耗に耐性を持つ特殊なポリマーブレン ドで、内部のスプリングでシャフトに対して縁を押 し付けるように設計しています。シールアセンブリに はステンレス鋼のロック機能やOリング、軸方向に 圧縮したフランジ付きセクションなど、シールの回 転を防ぐメカニズムが含まれています。設計者はア センブリのその他の部品、すなわちシールを取り付 ける筐体やモータシャフトも考慮する必要がありま す。機械的な逃げと表面仕上げはしっかりと管理し て、シールの堅実な長期間の作動を確保しなけれ ばなりません。シャフトシールによってシャフトでの 湿気の侵入を防ぐことはできますが、欠点がないわ けではありません。いつかはシールの縁とシャフト の表面が摩耗するので、長寿命を実現するために 設計者は最終的に湿気がシールを通過することを 考えておく必要があります。さらにシールにより摩 擦が起こり、ツールの作動温度が上がります。

モータに湿気が進入する場所として考えられるの は、ツールの末端部分だけではありません。モータ とギヤヘッド間のような、モータ筐体の継ぎ目にも その可能性があります。そういった場所から湿気の 進入を防ぐ密封手段として、密封レーザー溶接、密 封式ねじ山、Oリングを使用します。もうひとつ考え られ 進入点としてモータの電気的接続部があり ますが、これはさまざまな方法で緩和できます(こ の後のセクションで説明します)。湿気や液体に対 して堅牢で信頼性の高い設計を行うには、ツールの 設計者がモータの設計者と緊密に連携することが 強く推奨されます。

機械的部品の故障
潤滑剤の流出はさまざまな機械故障の原因となり ます。潤滑剤は、ギヤ表面とベアリング構成部品 のようなコンポーネント間の金属接触と腐食の両 方を防ぎます。適切な潤滑剤は、記載されている 最高作動温度が減菌温度を十分上回り、水ウォッ シュアウト特性が低く(ASTM D1264相当の試験によ る)、腐食試験(ASTM D5969相当)にも良好な結果 を示す必要があります。

ギヤ、シャフト、ベアリングのような機械的部品に は、金属疲労、摩耗、腐食による故障に耐性を持つ 材質を選択することが重要です。析出硬化ステンレ ス鋼やオーステナイト系ステンレス鋼製の部品は、 生理食塩水や蒸気による腐食に対する耐性は強い ものの、全部品に必須の摩耗耐性が得られない場 合があります。マルテンサイト系ステンレス鋼はオー ステナイト等級よりクロムの含有量が少なく、腐食 への耐性は劣りますが、強度と表面硬度が高く、ベ アリングやギヤなど金属どうしが接触する部品に使 用できます。窒素、ニッケル、モリブデンを付加し、 多少炭素レベルを下げた新素材により、腐食耐性 を改善したマルテンサイト系ステンレス鋼が生産さ れています。ステンレス鋼の代替素材を使って、腐 食耐性と摩耗耐性を改善した設計が可能になる場 合があります。ベアリングリテーナのような負荷の 軽い部品は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリアミドイミド(PAI)で作ることもできます。超硬 合金やセラミックも選択肢に入ります。これらは優 れた腐食耐性と摩耗耐性を持ちますが、比較的壊 れやすいと言えます。窒化ケイ素や二酸化ジルコニ ウムセラミック製の部品を使用したベアリングは、 マルテンサイト系ステンレス鋼部品より腐食耐性が 遥かに優れています。

電気的な故障
電気的な故障はプリント基板、ホールセンサ、関連する電気的接続が故障した際に起こります。多くの場合、根本原因は湿度です。部品の保護には、樹脂ポッティング、トランスファー成形、コンフォーマルコーティング といった、湿度に耐性のある材質で電子部品を封入するオプションを利用できます。

樹脂ポッティングでは、筐体の内部で部品に この処理を行います。シリコンやエポキシ樹 脂のような液状化合物をアセンブリの上から 注いで充填し、部品を覆います。混入した空 気を取り除くには真空機器を使用できます。 最終的にアセンブリが保護され、液体が硬 化し、部品をその中に包み込みます。筐体と
部品を包み込んだ硬化化合物は、最終製品 の一部となります。

トランスファー成形はポッティングと似てい ますが、封入する素材は事前加熱した固体 である場合があります。部品(筐体付きまたは筐体なし)を加熱したモールドキャビティ内に装着し、封入材を モールドに押し込んで充填します。モールドの過熱により、封入材が液体の状態に留まり、完全にモールド内に行き渡ります。行き渡ったら、モールドした部品を冷却して熱硬化させます。樹脂ポッティングとトランスファー 成形は両方ともに、湿気に対する耐性が付くだけでなく、機器が温度に敏感である場合や、振動や衝撃に対する耐性が必要な場合に優れた選択肢となります。またむき出しの配線にかかる張力も緩和します。

樹脂ポッティングやトランスファー成形で処 理されたアセンブリへのリード線は、リーク パスを形成します。多くの配線用被膜素材、 特にPTFEは、モールド素材とうまく接合しま せん。ひとつの解決方法として、被膜にエッチング処理をして粘着性を改善させること ができます。エッチングは化学反応で、PTFE
のカーボンバックボーンからフッ素をはぎ取 り、有機体への置き換えを促進して粘着性 を得ます。エッチングした表面は湿度や紫外 線の影響を受けやすくなるため、適切に保管 し、なるべく早く使用する必要があります。 場合によっては、端子ピンに置き換えて完全 に配線経路を避ける方が良いかもしれませ ん。端子ピンは接合もしやすく、ポッティングやモールドの素材を越えて延長でき、接続相手となるコネクタ に直接差し込めるように設計できます。

パリレンのようなコンフォーマルコーティングは気化ガスとして塗布して、湿度に耐性を持つ最も薄いコー ティングを形成します。事実上、小さい穴や隙間ができません。ただ振動や衝撃に対する耐性がなく、配線 の張力を緩和せず、組み立て中に損傷しやすいというという欠点があります。

磁気回路の故障
磁気回路の故障は、モータの配線や永久磁石が高温や高湿度にさらされることにより生じる場合がありま す。そのため、高温に耐え、断熱をしっかり行った電線を使用するべきです。プリント基板同様、型巻コイル は成形またはポッティングするべきです。永久磁石は、温度や湿度のせいで腐食するか減磁する場合があり ます。焼結したNdFeB磁石はSHかUH等級で、電気メッキされているかエポキシ樹脂コーティングされている必 要があります。サマリウムコバルト磁石も腐食や減磁の問題回避に使用できます。

結論
手術用電動ハンドツールはますます高機能化しており、こういったツールの心臓部である電気モータは、手 術中の湿気の存在や再利用のためのツールの減菌処理により、さまざまな故障要因の影響を受けています。 最近、モータの設計者は、最終的にモータに影響を与える湿気に耐える機能を劇的に改善しています。湿気 に耐える機器の信頼性を最大限に高めるためには、ツールとモータを共同で設計する必要があります。この 市場のリーダーであるポルテスキャップは、外科用機器のOEMと長年協業して、この分野特有の用途に合っ たカスタムソリューションを設計しています。オートクレーブ対応のモータソリューションは業界最高の性能 を発揮し、何千回もの再処理/減菌サイクルに持ちこたえるとたびたび報告されており、世界中の何千万回も の外科手術で使用されています。

エンジニアへのお問い合わせ:

 

外科手術用シェーバー
図1: 外科手術用シェーバー
外科用ハンドツールの例
図2
脊柱用ドリル
図3: 脊柱用ドリル
膝の関節鏡検査
図4: 膝の関節鏡検査