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モーションシステム設計者は、DCブラシレスモータを駆動するためにPWM (パルス幅変調)を使用する 電子機器を選択または開発する際に、課題に直面することがよくあります。不測のパフォーマンス問 題を回避するには、いくつかの基本的な物理現象を把握しておくと便利です。この文書では、ポルテ スキャップ製のDCブラシレスモータでPWMドライバを使用する場合の一般的なガイドラインについて説明し ます。
DCブラシレスモータの整流
ブラシ付きDCモータ(整流はブラシによって機械的に行われる)とは異なり、DCブラシレスモータは電子的に整 流されます。これは、ロータとステータの相対位置に応じて、モータの位相が順に通電/無通電状態になるこ とを意味します。3相DCブラシレスモー タの場合、ドライバは6つの電子スイッチ (通常はトランジスタ)で構成されており、 一般的には3相Hブリッジと呼ばれます (図1を参照)。この構成では、3つの双方 向出力でモータの3相に通電できます。
特定の順序でトランジスタを開閉する と、モータの位相に通電され、ステータ 磁石とロータ磁石(図2、図3、図4を参 照)によって誘起される磁界が最適な向きを 維持できます。
モータは、広く使用されている6ステップ台形波整流で駆動できます(図3を参照)。また、より優れた電子機器 を用いる場合は、フィールド指向制御(FOC)とも呼ばれる、さらに高度なベクトル制御で動作させることができ ます(図4を参照)。
PWMの制御
ブラシ付きモータ(図5参照)またはDCブラシレスモータ(図6 参照)のいずれの場合も、アプリケーションの動作点(速度お よびトルク)は異なります。増幅器の役割は所望の運動出力 を達成するために、供給電圧または電流、あるいはその両 方を変化させることです。
電圧または電流を変化させるには、通常2つの方法があり ます。
• | リニアドライバ(またはリニアアンプ) |
• | チョッパードライバ(またはチョッパードライバ) |
リニアアンプは、供給される電力がモータに適応できるよ う電圧または電流を線形に変化させます。モータに供給さ れない電力はアンプが散逸します(電力損失 - 図6を参照)。 そのため、電力を消散させるために大きなヒートシンクが 必要になることで増幅器のサイズが大きくなり、アプリケー ションに組み込むことがより困難になります。
チョッパー増幅器は、パワートランジスタのオン/オフを切り替えることで電圧(および電流)を変調します。主な利点は、トランジスタがオフのときに電力を節約できる点です。これにより、アプリケーションでのバッテリー消費を節約できます。また、電子機器からの発熱が少なくなるだけでなく、電子機器のサイズを小さく抑えることができます。多くの場合、チョッパー増幅器ではPWM方式が採用されます。
PWM方式では、電圧または電流を所望の目標値内に調整するために、固定周波数(図7参照)でデューティサイクルを変化させます。
電流をチョップするPWM技術の1つの利点は、スイッチング周波数が固定パラメータであることにあります。そのため、電子設計者にとって、発生する騒音や電磁ノイズのフィルタリングが容易になります。
PWMのトランジスタが常時開の場合、モータに印加される電圧はフルバス電圧になります。トランジスタが50%の時間開いている場合、モータに印加される平均電圧はバス電圧の半分になります。トランジスタが常時閉の場合、モータには印加されません。
インダクタンスの影響
DCモータは、インダクタンスL、抵抗R、逆起電力(back-EMF) Eが直接接続されていることを特徴とします。逆起 電力は、印加電圧に抵抗する磁気誘導(ファラデーの電磁誘導の法則)によって生じる電圧であり、モータ速度 に比例して大きくなります。PWMがオン時、そしてオフ時のモータを図8に示します。
に比例して大きくなります。PWMがオン時、そしてオフ時のモータを図8に示します。 ここでは理解しやすいように、逆起電力は考慮しません。
RL回路に電圧を印加したり、電圧の印加を停止 すると、インダクタは電流の変化に抵抗します。 RL回路に電圧Uを印加すると、電流は一次指数 関数的上昇をたどり、その遷移はL/R比に等しい 電気的時定数τに依存します(図9参照)。時定数 の5倍に到達後、定常状態値つまりU/Rの99.3% に漸近的に達します。
RL回路が放電するときにも同じ指数関数的挙動 が確認できます。図10を参照してください。
実際は、ブラシレスDC増幅器は比較的高次の PWM周波数を有しており、電流が定常状態に 達することを許容することはありません。通常、 この周波数は50 kHz以上であるため、各整流ス テップ間で発生する十分なサイクルで電流を 適切に変調することができます。PWM周波数が 50 kHzの場合、トランジスタの閉から開までの サイクル時間は20 μsに等しくなります。6ステッ プ転流を考慮に入れると、40000 rpm (667 Hz)で 動作する単極モータの転流時間は250 μsにな ります。つまり、転流の1ステップ間に少なくとも 250/20=12.5サイクルのPWMが可能となります。
ポルテスキャップのDCブラシレスモータは、数百マイクロ秒の電気的時定数τ を有するため、各PWMサイクル 間において電流が応答する時間を確保できます(下記、図11参照)。
しかし、機械的時定数は数ミリ秒の範囲内にあるので、機械的時定数と電気的時定数との間には約10倍の差 があります。そのため、電圧が一般的なPWM周波数でスイッチングされる場合、モータのロータ自体が十分な 時間をもって応答できません。数千ヘルツの低いPWM周波数は、ロータの振動や可聴ノイズを発生する可能 性があります。可聴周波数以上、つまり少なくとも20 kHz以上にすることをお勧めします。
PWMの限界
PWMは各サイクルで電流を増減させます。電流の最小値と最大値の差を電流リップルΔIと呼びます(図11参 照)。高電流リップルは問題を引き起こす可能性があるため、できるだけ低く保つことが推奨されます。
DCモータのトルクは、次の式で示すように平均電流に比例します。
モータのトルクについては平均電流であるIavgを考慮する必要があります。平均電流が影響を受けるのは デューティサイクルのみで、電流リップルの影響は受けません。図11からわかるように、デューティサイクルが 同じ場合であれば、リップルが大きく異っても(電気的時定数が異なる状態)、平均電流は同一となります。
ブラシ付きDCモータとは異なり、ブラシのないDCブラシレスモータでは、高電流リップルが寿命自体に影響 を与えることはありません。電流リップルは過度の熱を発生させ、モータ損失の重大な要因になります。電流 リップルは次の2種類の損失を引き起こします。
• | ジュール損失: 電流リップルはジュール損失計算で使われる値であるRMS(二乗平均平方根)電流値を増加 させます。リップルにより平均電流が増加することはなく(トルクの増加がなく)、不必要な熱が発生するだ けです。これはRMS電流関数の二乗の変分であることに注意してください。 |
をPWM , の時間周期とすると、RMS電流を次式で計算することができます。
• | 鉄損: ファラデーの電磁誘導の法則(Eq. 4)によると、導体材料の磁場の変化によって電圧が生じ、渦電 流と呼ばれる循環電流が発生します。 |
渦電流損はモータ速度の二乗とモータ電流の二乗に比例します。実際の測定で電流リップルの値が高い 場合、発生する付加的鉄損が顕著になります。そのため、できる限り電流リップルを小さく抑えることが重 要です。
電流リップルの式を計算し、リップルを最小化するためのガイドラインを定義します。モータ概略図(図8参照) から、モータの方程式を導き出すことができます。
電流の変化が短いTON と TOFF 間で線形であると仮定すると、微分方程式を次のように書き直すことができ ます。
定常状態を仮定すると、電流リップルは一定です。
そのため、2つの方程式を1つにまとめることができます。
デューティサイクルDとPWM周波数fPWMを使用することで、方程式を単純化できます。
こうして電流リップルΔIの式を導くことができます。
PWMのデューティサイクルの関数における電流 リップルの変化は、図12に示すように放物線状にな ります。
リップルの最大値は、デューティサイクルが50%、 つまりD=0.5のときに得られます。
方程式(Eq. 15)では、影響を与えるパラメータがいくつ か存在します。
• | 電源UPWM |
• | デューティサイクルD |
• | PWM周波数fPWM |
• | インダクタンスL |
電流リップルを最小化するための推奨事項
電源電圧を低減または調整する
電流リップルは電源電圧に正比例します。供給電
圧が高いと、高速動作またはより高電力を必要とす
る極端な動作点に到達しやすくなります。しかし、
高速動作も高電力も必要としないアプリケーショ
ンの場合、電源電圧を抑えることで電流リップルを
低減しやすくなります。電源電圧が低い状態で同じ
負荷ポイントで動作させると、デューティサイクルも
増加し、電流リップルがさらに減少します。一般的
にPWMのデューティサイクルを、最低ラインである
50%から可能な限り離すことが重要です(図12)。
PWM周波数を増加させる
周波数が高いほど、PWMのサイクルタイムは短くな
ります。そのため、電流の上昇時間が短くなります。
当社は、DCブラシレスモータでは50 kHz以上のPWM
周波数を使用することを推奨しています。電気時定
数が非常に小さいモータでは、80 kHz以上のPWM周
波数が最適です。
インダクタンスを増やす
当社のDCブラシレスモータのインダクタンス値は非
常に小さく設定されています。そのため、外部インダ
クタンスを追加することで電流の立ち上がりと立ち
下がりが遅くなり、電流リップルを減少できます。ま
た、ポルテスキャップのカタログで規定されている
インダクタンス値は、1 kHzのPWM周波数に対するも
のです。モータのインダクタンスはPWM周波数に依
存して変化します。50 kHzの一般的なPWM周波数で
は、インダクタンスはカタログ値の70%まで低下しま
す。一般的には、数十μHのインダクタンスが追加さ
れます。通常、インダクタンスの最適値は実験的に
検証します。図13に示すように、追加インダクタンス
が必要になります。
この方法で電流リップルの問題を解決できます が、特に物理的なスペースが制限されている場合 は、追加インダクタンスを統合することが困難に なる場合もあります。そのため、通常は別の2つの 選択肢をまず検討することをお勧めします。
結論
PWMには多くの利点があり、DCブラシレスドライバで最も広く使用されているソリューションです。PWMの電圧を適切に設定し、高いPWM周波数を使用することで、リップルが低減されるだけでなく、追加インダクタンスが必要なくなります。現在の電子部品の価格を考えると、高いPWM周波数を使用することが現実的なソリューションとなっています。電子設計者はモーションシステムを開発する際、特に電子部品のサイズと重量が重要な場合(電子機器を内蔵したポータブル機器など)や、バッテリー寿命が重要な基準(余分なインダクタンスの内部抵抗に対するジュール損失によって消散される追加のエネルギー)となる場合には、これらのパラメータを慎重に考慮する必要があります。ポルテスキャップのエンジニアが、当社のDCブラシレスモータに適した電子機器の選定をお手伝いします。サポートが必要な場合は、当社にご連絡ください。