使い捨て外科手術用電動ツール用途でのブラシ 付きDCモータとブラシレスDCモータの比較

使い捨てツールは、コストと衛生上のメリットにより、外科用ハンドツール市場で急成長して いる分野です。ツール設計エンジニアにとって、モータ技術の選択、特にブラシ付きDCモータ かブラシレスDCモータかの選択がしばしば重要となります。

外科用電動ツールの設計者は、使い捨てまたは再利用可能な設計アプローチのどちらを採用 するかを選択する必要があります。コンポーネント設計と製造技術の進歩により、複雑な手 術を行うために必要な機能を維持しながら、1回の手術後にツールの廃棄が許容される価格 帯での機器の製造が次第に可能になりました。これらの進歩はモータにまでおよびます。ブ ラシ付きDCモータとブラシレスDC(BLDC)モータの両方の設計と製造の改善により、価格を 下げながら性能を向上させたため、使い捨ての設計でも手術用ツール1台あたりのコストを 十分に低く抑えることができるようになりました。さらに一部のツールにおいては、不適切な 滅菌による感染のリスクを取り除けるため、安全性を高める機会ともなるでしょう。

使い捨てツールでのモータの性能要件

再利用可能な外科用ツールと使い捨ての外科用ツールのモータ性能の要件は似ていますが、 寿命とコストの要件は大きく異なります。再利用可能なツール用のモータは、数百回、時に は数千回の手術に耐えうる要件が求められる場合があるため、それだけの性能を確保するに は高品質のコンポーネントと材料を使用する必要があります。使い捨てツール用のモータも、 1回きりの使用とはいえ同様の性能を持つ必要があり、しかも大量かつ競争力のある価格で 入手できなければなりません。

使い捨てツール用のモータを指定する場合、設計エンジニアは、より高度なBLDC技術に対し て、従来のブラシ付きDCモータの考えられる利点を考慮する必要があります。設計の特質と 本来備わっている信頼性という利点により、BLDCモータは再利用可能な電動ツールによく採 用されます。BLDCには利点があるのですが、残念ながらブラシ付きDCに比べてコストが増加 します。したがって使い捨てツールへのBLDCモータの採用は、多くの場合現実的ではありま せん。設計者は、ブラシ付きDCモータとBLDCモータ技術の性能とコストのトレードオフを正し く特定できるように、両方の技術に精通したモータ供給業者と協力する必要があります。

ブラシ付きDCモータとブラシレスDCモータ

新しいプロジェクトの目標が性能と信頼性を最大化することである場合、設計エンジニアは BLDC技術の採用に傾きがちです。ブラシレス技術により動作寿命が延び、また高速(最大 100k RPM)での動作が可能になります。BLDCでは、整流は機械的なブラシを使用せずに

(つまり、磁気ホールセンサーまたはブラシレスモーターコントローラーを備えたセンサーレス ドライブを介して)行われるため、モータの回転コンポーネントと静止コンポーネント間の接 触はボールベアリングに限定されます。つまり、モータの寿命は主にベアリングの寿命に依 存しており、モータは長期間、高速で作動できます。

Figure 2

それに比べてブラシ付きDCモータでは、機械的ブラシ(グラファイトまたは貴金属)がローター と物理的に接触して電気的に接続することで整流が行われます。この場合、モータの寿命は 主にブラシの寿命によって制限され、高速になると摩耗が早 まります。使い捨てのツールの場合、寿命が短くてもよいとい う要件を考えると、高速は問題にならない可能性があります が、これは用途における負荷サイクルと速度要件に大きく依 存します。

ブラシ付きDCモータの性能も、設計と使用する材料によって大きく異なります。たとえば、 Portescapのブラシ付きDCモータは「コアレス」で(ほとんどの低コストのブラシモータは鉄心 を備えています)、ローターはコイルと単一のシャフトのみで構成されています。コアレス設計 により慣性が低くなり、加速と効率の性能が向上します。また、低速での回転の滑らかさを 低下させる可能性のあるディテントトルク(コギングトルク)も排除します。

再利用可能な外科用ツールの場合、寿命と速度の要件により、BLDCが理想的なソリューショ ンになることがよくあります。ただし使い捨て設計を採用する用途においては、ブラシ付きDC モーターが魅力的なソリューションとなる場合もあります。

コストへの影響

性能要件が満たされると、多くの場合、次に重要な考慮事項はコストです。ブラシレスモー タシステムは本質的により高価です。整流を実現するためにブラシレスモータコントローラー を搭載する必要があり、多くの場合、ローターの位置を検出するための電子機器が組み込ま れています。用途によってはこのコストは正当化できますが、多くの場合そうではありません。 たとえば非常に高性能なアプリケーションでは、プレミアムベアリング、ダイナミックシャフト シール、高品質の磁石など、比較的高価なコンポーネントが必要になる場合があります。こ れらの高コストのコンポーネントの仕様により、使い捨てツール戦略を正当化することが困難 になる場合があります。対照的にブラシ付きDCモータでは、整流はブラシによって直接管理さ れ、速度制御にはより単純なPWM回路が使用されます。ブラシ付きDC技術の進歩により、コ ストに大きな影響を与えることなく、より高い性能を実現できました。つまり寿命は短くてよい という使い捨てツールの要件と相まって、より低価格のブラシ付きモータで実現できると通常 考えられるレベルを超える性能レベルを満たせるということです。

使い捨てツールの場合、1回の手術にかかる費用には、ツールの全購入価格が含まれます。 再利用可能なツールを使用すると、各処置につき購入金額のごく一部のみが償却されます。 さらに、外科用電動ツールは手術前に滅菌する必要があります。このプロセスによって追加 の費用が発生しますが、それを手術の総費用を評価するときに考慮すべきです。結果として、 手術センターが1ツールあたりに実行できる手術の数と、手術の間に滅菌するためのコストは、 使い捨てのツールと再利用可能なツールのどちらが最適かを決定する主要な要素となります。 当然ながら、再利用可能なツールは使い捨てのツールよりも購入価格がはるかに高くなりま す。しかし、センターがそれを十分な数の処置に使用できる場合、処置ごとの平均コストは 使い捨てツールのそれを下回ります(図A)。

Chart A

より高価な再利用可能ツール(おそらく低コストのブラシ付きDCモータの代わりに高性能の BLDCモータを使用)は、長期間使用して使い捨てよりも安価するには、当然より多くの手術 を必要とします。滅菌コストはまた、損益分岐点に必要となる処置の数を大幅に増加させる ため、場合によっては、手術の回数に依存しない使い捨てのツールの方が望ましい場合があ ります(図B)。

Chart B

Figure 3

上記の分析は、ツールオプションに関連する平均コストを比較するだけであり、再利用可能 ツールと使い捨てツールの採用の決定要因となるその他の利点を考慮していないことに注意 してください。たとえば、最高級の再利用可能ツールは、使い捨てツールよりも優れた性能 と追加機能を備えています。損益分岐点に達していなくても、外科医と患者に提供される価 値によって、それを正しい選択とするかもしれません。また再利用可能ツールが必然的に持 つ感染のリスクは、滅菌プロセスのコストには考慮されていません。ツールは適切に滅菌し ないと、患者にとって危険です。この記事では、滅菌方法と滅菌を容易にするツールの設計 について詳しく説明しません。使い捨てと再利用可能な電動ツールについての議論は、再処 理と患者の安全を考慮しないと不完全であろうと言うにとどめておきます。滅菌は安全で効 果的であることが証明されていますが、手術の間でのツールの適切な滅菌の失敗は、外科用 電動ツールの設計者も考慮すべきリスクです。使い捨てツールは、ツールOEMが滅菌およびパッ ケージ化できます。このアプローチにより、用途や病院システムによっては患者の安全性が向 上する可能性があります。

例:

医療機器会社の研究開発チームは、次の仕様で新しいツールを開発しています。

  • 手に持てる外科用電動ツールで、処置中に適切に機能しなくなった場合に深刻な合併症を 引き起こす可能性がある
  • モータの直径は17 mmを超えてはならない
  • モータは、5 mNm、15,000 RPMで継続的に稼働する必要がある
  • デバイスはバッテリで電力を供給し、モータは6~9 ボルトの電圧、最大1.5アンペアの電流で、 少なくとも80%の効率で作動する
  • この処置ではコストが重要なので、モータの費用は各手術当たり20ドルを超えてはならない
  • 設計チームは使い捨てツールを推奨するが、再利用可能モデルの可能性もある
  • ブラシ付きDCモータまたはBLDCモータ技術を使用可

エンジニアは、ブラシ付きDC技術とBLDC技術の両方を提供でき、外科用電動ツール市場での 豊富な経験を持つモータ供給業者との提携から始めます。モータ供給業者は、直径17 mm未 満で、性能と電力の要件に最も適合するモータを各技術から選択します。これらのオプション を以下の表にまとめます。


ブラシ付きDC
DCブラシレス
パッケージ Ø17 mm、長さ26 mm Ø13 mm、長さ47 mm
最大連続トルク(mNm)
5.7mNm 9mNm
推奨最大回転数 (RPM)
10,000 RPM 100,000 RPM
コントローラー
PWM ホールセンサー付きBLDC コントローラー
必要な電圧
7 V 9 V
引き込み電流
1.4 A 1.2A
出力電力
9.8W 10.8W
作業点での効率
80% 72%
価格の例
$15 $160

どちらのオプションも5 mNmのトルク要件を満たしていますが、DCブラシ付きモータの最大連 続トルク定格は5.7 mNmでごくわずかに高くなっています。これはモータの寿命を縮めますが、 1回限りの処置では問題になるほどではありません。より大きな問題は15,000 rpmという速度 の要件で、これはブラシ付きDCモータの最大速度よりも高速です。これは1回限りの処置では 問題ないかもしれませんが、手術中の失敗のリスクが高まります。モータのコストは十分に安 く、使用するたびに捨てることができます。

BLDCモータは速度とトルクの要件を簡単に満たすことができ、 多くの手術で何回も使用してもこれを継続できます。ただし、 効率は目標の80%よりもわずかに低く、価格は $20とかなり 割高です。BLDCモータを採用するには、少なくとも8回の手術 で使用する必要があります。

用途に応じた性能と価格の要求により、設計エンジニアは使い捨てモデルのブラシ付きDCモー タか、再利用モデルのBLDCモータを選択する必要があります。この例では、複数の手術で失 敗するリスクがあるため、再利用可能なブラシ付きDCモータは使用できません。また費用が かかるため、使い捨てのBLDCモータは使用できません。

次に、1回の手術における高速性の欠如というブラシ付きDCモーターの欠点によるリスクを許 容できるかどうかを決定します。許容できない場合、エンジニアは速度要件を下げることにな りますが、その結果ツールの性能が低下します。または再利用可能なモデルを選択して、効 率の低さを許容することも考えられます。その場合はツールの使用後に滅菌できるように設計 する必要があり、顧客は使用のたびにツールを滅菌する必要があります。手術ごとの総費用 を計算するときは、両方の要素を考慮しなければなりません。

結論

使い捨ての外科用電動ツールの人気の高まりにより、設計目標を達成するためのブラシ付き DCモータの需要が高まっています。コスト効率がモータ寿命の延長よりも重要である場合、 BLDC技術は、より複雑なソリューションのコストへの影響を考えると、最良の選択ではない場 合があります。技術の選択は、用途に大きく依存します。外科用デバイスの設計者は、設計 サイクルの早い段階で、外科用設計の専門知識やBLDCソリューションとブラシ付きDCソリュー ションの両方の範囲の製品を持つモータ供給業者と協力すれば、良い結果を出すことができ ます。

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