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はじめに
DCモータはその構成にかかわらず、電気的エネルギー(DC)を機械的エネルギーに変換するという同 じ作業を常に行います。モータに供給される電圧と電流は、モータシャフトの出力トルクと回転速度 に変換されます。しかし、インフュージョンポンプのような携帯型医療機器などの多くの用途では、 単なるDCモータではなく、最高の効率でこの作業を行い長寿命で信頼性の高いソリューションを実現 できるモータが求められています。それは一般的に、コアレスDCモータが得意とする分野です。(図1)
例として、モータに約 7000rpmの継続的な動作と 4mNmのトルクが求められ る場合を考えると、この モータは2.9 Wの連続出力 を提供する必要がありま す。ポルテスキャップが提 供する貴金属整流式16DCT Athlonix™コアレスDCモータ は、最大4.2 Wの最大連続出 力に対応するため(図2を 参照)、このような用途に 最適です。
このモータが必要な連続出力を供給できると分かれば、選択するのはモータコイルだけとなります。 適切なモータコイルを選択するには、以下2つのポイントを理解することが重要です。
• | DCモータの最大連続トルクは熱放散の能力によって決まるため、その寸法が重要となります。 DCモータのコイルを変更しても、最大連続トルクへの影響はありません。 |
• | コイルを変更すると、使用可能な電源(電圧および電流)にモータを適応させて効率的なモー タソリューションを作成することが可能になります。 |
以下では、まずDCモータのコイルを選択する際に重要な式を簡単に説明します。次に、さまざまな 電源が利用可能なシナリオを確認し、各電源がコイルの選択に与える影響を示すことで、上記のポイ ントをより良く理解できるようにします。
理論のレビュー
トルク
DCモータによって発生したトルクは、次の関係で説明することがで
きます:発生した出力トルクは、モータのトルク定数に消費電流を
乗算したものと等しくなります。
トルク定数をその基本的な依存関係にさらに展開すると、同じ式を次のように表すことができます。
r、l、およびBのパラメータは、選択したモータとその寸法によって決まります。そのため、異なるトルク定数を持つコイルを設計するには、コイルの巻数Nを変化させます。
速度
DCモータの回転数は、次の関係で説明できます。
特定のモータサイズ(直径16 mm × 長さ25 mm)を考えた場合、モータレギュレーションファクター R/kM2は、さまざまなコイルで一定となります。摩擦を無視すると、モータの無負荷回転数 ω0は、利用可能な供給電圧とコイルのトルク定数によって決まります。(図3)
上の例では、一般的に特定のモータに対して異なるコイルを選択できる理由が明確に示されていま す。図示されたすべてのコイルで、供給電圧や電流要件が異なっても、同じ作業点を実現することが 可能です(例では回転数5500 rpm、トルク5 mNm)。そのため、コイルはモータで利用可能な電源に 合わせて選択します。
効率と機械力
効率は、機械的出力を電気的入力で除算したものとして定義されます。
ポルテスキャップのDCモータは通常、コイ ルレス設計と最適化された磁気回路によっ て最大90%の効率を実現します。しかし摩擦 以外にも、主にコイルの銅線に流れる電流 によって生じる熱のため、電力の一部が常 に失われます。このような熱損失はジュー ル損失と呼ばれ、コイルの抵抗に電流の二 乗を乗算した値に比例します。(図4)
したがって、高効率を実現するための目標 は、できるだけ少ないジュール損失で最大 の機械力を生成することとなります。これ を実現するには、下のグラフに示すよう に、モータを高い回転数と低いトルクで使 用します。 (図5)
DCモータを停動トルクの半分で使用した場合に機械力が最大になったとしても、モータ電流が低い ため低トルクで効率が非常に高くなり、その結果ジュール損失が低くなります。モータをできるだけ 高い回転数と最高の効率で使用するには、モータのコイルを適切に選択する必要があります。
カタログに掲載された中から適切なコイルを選択
適切なモータソリューションを特定する場合、コイルのカスタマイズが常に選択肢となるわけではあ りません。新しいコイルを開発するには、顧客とモータメーカーの双方が時間と資金を投資しなくて はなりません。したがって、最初のセクションでは、カタログに掲載された中から適切なコイルを選 択することのみに注目します。
シナリオ1 – 電圧型電源
「はじめに」のセクションに示した例で、利用可能な電源が以下の場合を想定します。
• | 作業点:回転数約7000 rpmとトルク4 mNmでの連続運転、2.9 Wに相当 |
• | 選択したモータ:ポルテスキャップの16DCT Athlonix™コイルレスDCモータ、最大連続出力4.2 W |
• | 利用可能な電源:10.8 V固定電圧の電源 |
コイル213Eとコイル211Eは、約8000 rpmとそれぞれ9Vと12Vで動作するように設計されているため、合 理的な選択肢のように見えます。供給電圧10.8 Vで作業点におけるモータの回転数と電流は、「はじ めに」のセクションで説明した式とデータシートに記載されたコイルのパラメータを使用して計算で きます。 (図6).
その結果、利用可能な電源電圧と負荷トルクで7000 rpm以上の速度に達するのは、コイル213Eだけで あることが分かります。電圧源を使用する場合、カタログに記載されたコイルで選択できるのは1つ だけとなります。最良のコイルを選択してモータを最適化するには、電流源が必要です。
シナリオ2 – 電流型電源
この2つ目のシナリオでは、電圧源の代わりに電流源を使用して同じ作業点を実現します。
• | 作業点:回転数7000 rpm超とトルク4 mNmでの連続運転、2.9 Wに相当 |
• | 適切なモータ:ポルテスキャップの16DCT Athlonix™コイルレスDCモータ、最大連続出力4.2 W |
• | 使用可能な電源:電流源、使用可能な最大連続電流 = 1 A、1~15 V |
使用可能な電流源は最大連続電流1 Aを提供し、電圧範囲は1~15 Vです。供給電圧に柔軟性があるた め、カタログに掲載された幅広いコイルで作業点を満足できると考えられます。7000 rpmと4 mNmで作 業点を満足するために必要な電圧は、この白書の「理論のレビュー」セクションで紹介した式で計算 できます。最初のシナリオと同様に、作業点を満足するために必要な電流は2段階で計算できます。
コイル219Pと207Pはそれぞれ、必要な電流と電圧が使用可能な範囲から外れているため、選択肢と なりません。全効率が基準となる場合は、コイル219Eが3つの中で最も効率的です。しかし多くの場 合、電流消費量の最も少ないコイルが最良の選択肢となります。電流消費量が少ないと整流システム の寿命が延び、バッテリ駆動アプリケーションでは1回のバッテリ充電で可能なサイクル数を増やす ことができます。
電流型電源を使用したこのシナリオでは、コイル211Eの電流がコイル219Eの約半分であるため、カタ ログに掲載されたコイルの中で最良の選択肢となります。電圧型電源を用いたシナリオ1で選択した コイル213Eと比較すると、モータの電流消費量を約25%低減しながら同じ作業点を実現することが可 能になります。
カタログから選べない場合にコイルを使用可能な電源に適応 (図7)
2つ目のシナリオでは電流型電源を使用できたため、カタログ掲載のコイルで必要な作業点を満足で きました。しかし、カタログ掲載のコイルで必要な作業点を満足できるとは限らないということも考 慮しなくてはなりません。そのような場合は、以下の例に示すように、電源に合わせてカスタム設計 されたコイルを検討するのが最善の方法です。
• | 作業点:回転数6000 rpm超とトルク4 mNmでの連続運転、2.5 Wに相当 |
• | 適切なモータ:ポルテスキャップの16DCT Athlonix™コイルレスDCモータ、最大連続出力4.2 W |
• | 使用可能な電源:7 V、最大0.5 Aの電流制限 |
カタログでは、無負荷で約8000 rpmとそれぞれ6 Vと9 Vに向けて設計された2つのコイルが見つかりま すが、どちらのコイルも7 Vでは速度が速すぎるか遅すぎます。さらに、コイル219Eでは電流消費量が 問題となります。
必要な作業点を満足するには、カタログに掲載された範囲外のコイルが必要です。そのためには、巻数がコイル219Eと213Eの間となる特殊なコイルを設計しなくてはなりません。専門のモータメーカーは、プロジェクトのサイズに応じて、上記の新しいコイルを設計・提案できます。(図8).
重要な情報
以下のポイントは、高効率が求められる用途向けにDCモータを選択する際に不可欠な考慮事項です。
• | 必要な機械力に応じてモータのサイズを選択します。必要なトルクを生みつつモータ内の損失によって生成される熱を放散できるのは、十分な大きさのモータだけです。 |
• | モータのコイルを選択する際は、使用できる電源を尊重する必要があります。モータメーカーは通常、電圧と電流のさまざまな要件に応じて同じ作業点を満足できるコイルを複数提案します。 |
• | 高効率のモータソリューションでは、高速と低トルクを条件として必要な機械力を生み出す必要があります。そのためには、使用可能な電源の利点を最も活用できるコイルを選択しなくてはなりません。 |
モーションソリューションの専門メーカーは、上記の点を考慮しつつ、用途に適切なモーションソリューションを特定できるよう顧客を支援します。