生物製剤送達デバイス向けの 適切なモーションソリューションの選択

生物製剤送達デバイス向けの 適切なモーションソリューションの選択

はじめに

生物製剤は、その名が示すとおり、免疫系を調節し、炎症反応を下方制御し、腫瘍に対する固有の防御をサポートするタンパク質や派生物で作られています。一般的な薬品は化学合成で製造されます。つまり、特定の化学物質を順序付けられたプロセスで組み合わせることによって作られます。対照的に、生物製剤は生体でできており、生物系(微生物など)内でバイオテクノロジーを使用して製造され、人間の免疫系の反応の仕方を変えることによって作用します。 

抗体、インターロイキン、ワクチンなどの生物薬品は、さまざまな病気と疾患の治療に使用され、利用可能な治療法の中で最も高度なものです。生物製剤は、がん治療を変革し、免疫に関連する症状を遅延または回復させ、まれな疾患を持つ人々の生活を変え、これまで自分の症状に対する有効な治療選択肢がなかった多くの患者に希望を与えています。

生物製剤は従来の小分子化学薬品よりも複雑で、分子量がはるかに多いため、粘度が非常に高くなります。この複雑さにより、開発および製造のコスト、課題、リスクが高まります。注入プロファイルは薬品を適切に送達するために非常に重要であるため、送達メカニズムは重要な役割を果たします。送達メカニズムはモーションソリューションによって操作されます。そのため、モーションソリューションはデバイス開発における推進要因になります。

注入デバイス向けのモーションソリューションについて詳しく見る前に、薬品がどこからどのように注入されるかを説明します。まず、薬品を患者の体内に送達するために使用される3つの方法を見てみましょう(図2)。

静脈内 - 静脈注射(略称はIV療法)は患者の静脈に薬剤を直接送達する医術です。この送達方法には制限があります。粘度の高い生物薬品を送達するのが困難であるためです。
皮下 - 皮下組織は皮膚のすぐ下の脂肪層と筋肉の上面の間にあります。ここには血管がほとんどないため、ゆっくりと持続的に吸収される薬品が注入されます。筋肉注射よりもゆっくりと吸収されます。
筋肉内 - 筋肉注射は好まれる方法です。筋肉は皮下組織と比べて大きな血管が多数あるため、薬品が迅速に吸収されるからです。

上記の方法に基づき、薬品の注入に使用されるデバイスには主に次の3つのタイプがあります(図3および図4)。

使い捨て: 名前が示すとおり、1回限り使用されるデバイスです。特定の投薬を目的としています。薬品の送達にかかる時間は数秒~数日で、コスト最適化されたソリューションを必要とします。いくつか例を挙げると、機械式注入器と使い捨てパッチポンプがこれに該当します。パッチポンプは身体に直接装着され、小さなケース内に容器、ポンピング機構、輸液セットを収めています。
限定使用: モータ付きソリューションを利用すると、治療過程にわたって複数の生物薬品カートリッジを使用できます。薬品ユニットとポンプユニットを分離し、薬品ユニットを使い捨てのものに、ポンプユニットを再利用可能なものにすることができるというメリットがあります。
再利用可能ポンプ: 堅牢性と耐久性に優れており、長持ちします。さまざまな粘度の薬品をプラットフォームとして扱い、治療の幅を広げられるようにすることを目的としています。

注入デバイスのモーションソリューションの技術的要件

表1. さまざまな生物薬品デバイスの主な性能パラメータ 

再利用可能な生物ポンプは、モーションソリューションへの要求が厳しいデバイスです。このタイプのデバイスは、最大で100 Nを超える高い軸力出力を必要とします。これだけの直線力が必要になるのは生物製剤の粘度が高いためです。粘度の高い生物製剤をプラットフォームとしてサポートする際には、比較的低粘度の薬品を正確に送達しながら、最高粘度の薬品を送達することができるポンプが必要になります。これらのデバイスは携帯用であるため、サイズと重量は重要なパラメータになります。高品質の生物製剤デバイス向けモーションソリューションは、通常は外径が10 mm~12 mmあります。 

再利用可能ポンプは、力とサイズだけでなく、高い堅牢性と信頼性を備えていなければなりません。製品保証は2~5年で、初日からポンプの保証最終日まで精度が変わらない適切なサイズのモーションソリューションが求められます。モーションソリューションの場合、設計者は必要な寿命を達成できるように90%超の確信度を確保します。 

モーションソリューションの選択に影響するその他の要因は、フィードバック、反復性、保管条件です。エンコーダは、治療が成功するように、モーションソリューションが必要な薬品送達を提供したことを確認します。また、すべての送達インクリメントが毎回達成されていることも確認します。生物製剤の保管要件はさまざまで、冷凍保管を必要とする製剤もあります。これは、低い温度と湿度に長期間耐えられるモータと変速機の機能に反映されます。

このタイプのデバイスには、ブラシレスDCモータまたはコアレスブラシ付きDCモータ(貴金属整流器付き)全般が最適です。平歯車変速機またはカスタム設計の変速機は、利用可能な最小のサイズで大きなトルク/力密度を提供します。

限定使用生物薬剤デバイスは、製薬業界における新しいトレンドです。長期デバイスとは異なり、柔軟な性能と安価なポンプに見合わない長寿命を提供します。これらのデバイスは一般に1つの生物薬品または限定された薬品提供を念頭に置いて設計されています。そのため、モーションソリューションの力およびサイズ要件は再利用可能なデバイスとは異なります。 

通常は、50N~80Nの力範囲を満たすモーションソリューションで十分です。これらのデバイスはバッテリーで駆動です。そのため、ポンプの設計においては効率性が重要な役割を果たします。貴金属整流器つきのコアレスブラシ付きDCモータは、このような長寿命バッテリー要件を満たすのに適しており、高い電力密度と信頼性を提供します。平歯車コンパウンド変速機は、限定使用生物薬剤アプリケーション向けの最適なソリューションを提供します。

使い捨て生物製剤デバイスは1回だけ使用されるアプリケーションです。薬品デバイス技術における高度な研究および調査によると、モータ技術においては適切な適合が不可欠です。これらのデバイスは特定の薬品に結び付いています。そのため、最適化されたモーションソリューションがこれらの大容量デバイスの鍵になります。

多くのモーションソリューションはこのアプリケーションに適合します。最適なモータ技術として、キャンスタック型ステッピングやブラシ付きDCなどがあります。ただし、代替アクチュエータ技術もソリューションになり得ます。キャンスタック型またはブラシ付きDCは、動作に複雑なドライブエレクトロニクスを必要とする非従来型のアクチュエータに勝るメリットを提供する成熟した技術です。

このようなアプリケーションのデューティサイクルは限られており、その幅は数秒から数時間までしかありません。アプリケーション要件に基づき、信頼性の高いコスト最適化されたモーションソリューションはこれらのデバイスに大いに役立ちます。

生物薬品送達システムの現在の課題

現代においては、新しく革新的な製剤が最盛期を迎えています。 IV薬品送達と比較すると、生物製剤では皮下または筋肉内送達がよく使用されます。最近開発されている生物製剤は、分子量が150,000 Da(ダルトン)の範囲を超える場合がある複雑な薬品です。この生物薬品の分子量は、一部の合成薬品の分子量と比べてかなり大きなものです(数千Daの範囲)。これは生物薬品の粘度の大きさにつながり、最終的には薬品送達デバイスの設計に課題をもたらします。

表2. さまざまな生物薬品デバイス向けのモーションソリューションの技術と主な性能パラメータ 

生物薬品と同様に、生物送達デバイスは市場にとって比較的新しいものであり、継続的に改良されています。今日の生物薬品デバイスのシナリオには明白な課題があります。

粘度の大きい薬品を扱う能力
大量の薬品の送達
より正確な送達
大きな人口リーチを実現できるコスト最適化されたソリューション

これらの課題のいくつかは、表2に示すモーションソリューションでサポートおよび解決できます。

電力密度の高いブラシレスおよびブラシ付きモータと減速比の高い変速機により、粘度の大きい薬品(50 Cp超)を扱える
電力密度は大量の薬品を小さなサイズ(10 mL~50 mL)に収めるのに役立つ
アブソリュートエンコーダ技術は薬品送達を正確に監視するのに役立つ(分解能3 - 5 um)
信頼性の高いモータと変速機は安全な在宅治療に長寿命を提供する

生物薬品送達デバイス向けのモーションソリューション

先に述べたように、送達メカニズム向けのモーションソリューションはデバイス設計の不可欠な要素です。設計エンジニアが利用可能なモータおよび変速機の技術にはさまざまなオプションがあるため、最初の選択の際にややひるんでしまうことがあります。このタスクを支援するため、主な性能パラメータについて詳しく説明し、さまざまな技術がそれらのパラメータにどのように対処するかを確認します。

トルク/パワー – どの技術もトルクを生み出す能力を備えていますが、出力能力はそれぞれの内部設計によって異なります。BLDCスロット付き設計は、モータに含まれている銅とマグネットの量が多いため、BLDCスロットレスよりも高い出力トルクを発揮します。ステッピングモータを考慮すると、ハイブリッドが最も高いトルクを発揮します。

速度 – 治療の期間と流れは薬品によって決まり、それに応じてデバイスの速度が設定されます。高速要件はブラシレスDCとディスクマグネットステッピングモータで、中速要件はブラシ付きDCで、低速要件はステッピングでそれぞれ満たすことができます。ギヤボックスを追加して出力トルクを高めることを検討する必要があります。これにより、モータの速度要件が対応する比率で高まるからです。

効率 – これらのデバイスはバッテリーで動作するため、効率はバッテリーサイズをできる限り小さくするうえで非常に重要です。ブラシ付きDCコアレスとブラシレスDCスロットレスは、ロータ設計を採用しているため、効率を高めるのに最適な選択肢です。

信頼性 – デバイスには、患者に対して施される治療の回数に基づく特定の寿命要件があります。モータの寿命に影響する主な技術要因は整流およびベアリングシステムです。ブラシ付きDCモータは機械的整流を採用しているため、モータの寿命はブラシの摩耗によって決まります。ブラシレスDCとステッピングモータは、モータ寿命を延ばす電気的整流を採用しています。モータ寿命に影響するもう1つの要因はベアリングです。ボールベアリングを採用しているモータは、スリーブベアリング採用しているモータよりも寿命が長くなります。モータ技術は両方のベアリングバージョンを提供します。標準で提供するものもあれば、カスタマイズを必要とするものもあります。

重量 – これらのデバイスは携帯用であるため、モーションソリューションの重量は患者の快適さを確保するうえで重要な要因になります。重量に関してはブラシ付きDCコアレスモータが最適なオプションです。

コスト – 各技術には、それぞれの設計に基づくコストプロファイルがあります。デバイスとそれに付随する治療法が市場に受け入れられるには、適正なコストプロファイルが不可欠です。そのため、各技術のコストドライバを理解することが重要です。

表3. さまざまなモーション技術の主な性能パラメータの比較

この表は、各種のモータ技術の比較とさまざまなパラメータにおける各技術の強みを示しています。これらのガイドラインは、新しい薬品送達デバイスの開発を検討している設計エンジニアにとって参考になるものです。モーションソリューションのサプライヤに問い合わせることは、デバイス開発に着手する際の重要な最初のステップです。

要約

現在、生物製剤が続々と開発されており、その多くが市場に投入されます。最高の薬品送達デバイスを実現するには、デバイス開発者とモーションサプライヤで共同開発を行うのが賢明なやり方です。生物製剤治療の要件に基づき、デバイスごとに特定の課題に直面します。そのため、早い段階でモーションサプライヤと協力すれば、適切なモータ技術と適切な付属品を組み合わせて最適なソリューションを実現するができます

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生物製剤(左)と従来の薬品(右)の薬物分子
図1. 生物製剤(左)と従来の薬品(右)の薬物分子
生物製剤の注入に使用される方法とデバイス
図2. 生物製剤の注入に使用される方法とデバイス
使い捨て(左)および限定使用(右)の薬品注入デバイスの詳細
図 3. 使い捨て(左)および限定使用(右)の薬品注入デバイスの詳細
再利用可能な薬品注入デバイスの概要
図4. 再利用可能な薬品注入デバイスの概要